2008年4月10日木曜日

「ブランディングその3」USFL連載その第22回(8月3週号)

これまで2回にわたって「ブランディング」について触れてきました。今回はそのまとめです。でも、「ブランディング」の定義をまだ説明していませんでした。「ブランド」とは、商品やサービスを象徴するものであり、名称や外見(ロゴ、パッケージ、色など)のみならず、その商品や企業に対する消費者の精神的なあり方までも含んでいます。企業は、消費者が自社ブランドに対するロィヤリティー(忠誠心)を持つようマーケティングします。そして、競合する商品の中から自社商品が選ばれるようにするのです。消費者に自社ブランドを浸透させる行為を「ブランディング」と呼びます。

ちょっと思い出話
私の祖父母の世代は「メイド・イン・ジャパン」に対して好意的ではありませんでした。「日本製は安物」というイメージがあったのです。私が初めて日本製品に触れたのは、家族が真っ青な” ダツン“(DATSUN/日産自動車が用いた商標名)の小型トラックを買った時でした。買ってすぐ、母がドアを開こうとするとドアが外れてしまいました(笑)。

2台目の日本車はホンダのシビック。外見は特に魅力的ではなかったのですが、新車の取り柄について両親が「安くて、燃費が良く、長持ちする」と話していたのを思い出します。実際あの車は長く持ちました。その後はターセルなど、色気はなくても、経済的で安定性のある交通手段としてトヨタ車を買うようになりました。
以来、私の家族はスウェーデン製の例外一台を除き、日本車を買っています。
このようにしてトヨタ車は、私と、おそらく私と同世代のアメリカ人の頭の中に浸透していったと思います。安定性・信頼性があって経済的。色気はほとんどないけど良い車。そういうブランドイメージです。

ブランドの持つ意味
ご存知のとおりトヨタは今、アメリカの高級車マーケットに挑戦し、見事に成功しています。しかし、あえて「トヨタ」ブランドではなく、「レクサス」ブランドとしてアメリカ市場に登場させました。
いったい何故でしょう?
日本人の方からしてみると、日本車にも高級車があることは不思議では
ないと思いますが、アメリカ人の感覚では違ったのです。20年前のアメリカでは、「日本車」は安定性・経
済性に優れてはいても、決して高級なイメージはありませんでした。
そこでトヨタはマーケティング戦略として、「トヨタ」という冠をはずし、全く別物であるかのような「レクサス」という新しいブランドを作り上げていったのです。

ブランディングの極意は一に露出、二にイメージ
これまでの2回、ブランド認知度アップの手法を紹介してきました。サービスや商品を人目に触れさせる手段として、テレビCM、ラジオ、新聞・雑誌広告、インターネットの検索エンジン(PPC やSEO)など広告媒体を利用できます。このステップは必要不可欠であり、非常に重要であることは誰にでも分かります。
そして、消費者がそのブランドに対してどういうイメージを持つか?
結局のところこれが、最終的に消費者がその商品を買うか買わないかを決める要因になります。
先のレクサスの例のように、ターゲットとするマーケットに受け入れられる戦略的なブランドイメージを創造する必要があるのです。
一に露出、二にイメージ。この2つのステップをクリアした時こそ、ブランディングは真の威力を発揮します。逆に言うと、この国では、ブランディングされていないものはまず売れません。この事実をきちんと理解して、ウェブを活用したマーケティングを行いましょう!

2008年3月15日土曜日

「ブランディングその2」 USFL連載その第21回(8月1週号)

第21回目はUSフロントライン(2007)8月1週号USFLに入っています。
コラム は、このブログ内でお読み頂けます。


やさしく解説 ウェブマーケティング
レイア・ワークマン(ACE Inc.)

昨夜、我が社が新しく開設したEビジネスセンターの準備が遅くまで続き、お腹が減ったのでファストフードを食べに行きました。私は決してファストフード愛好者ではありませんが、一部のファストフード広告の大ファンです。特Jack in the BoxとCarl's Jr.とい2社を評価しています。

東海岸在住の方は、西海岸が中心のこの2社には縁がないかもしれません。でも、もしかしたら彼らの天才的なブランディング戦略によって、名前を聞かれたことがあるかも。

昨夜食べに行ったバーガー屋はCarl's Jr.でした。でも、数年前のヒット宣伝がなかったら、きっと何も考えず、見慣れたブランディングの王様マックに行っていたことでしょう。

ビキニとバーガー
Carl's Jr.は2005年の春に、ピチピチ皮のビキニ姿のパリス・ヒルトンを使って新商品のスパイシーバーガーを登場させました。

パリスが身を振りながら高級車ベントレーを洗車し、最後にがぶりとバーガーを頬張る。全国のインターネットユーザーはこのCMビデオを求めて、同社ウエブサイトに殺到し、サーバーをクラッシュさせたほどです。
(Youtubeで「paris carls jr」と検索すれば見られます)。

世界に3万1000店舗以上をもち、年間何十億ドルも広告費に使うマクドナルド。こうした大手のシェアを奪うのは並大抵ではありません。しかし、資本力のはるかに劣る小規模なチェーン店(買収した中・東部のHardee'sを含めても全体で4000店舗以下)が、アイデアとテレビCMとインターネットと口コミを駆使して、少ない広告費用で、見事に消費者に認知されたのです。

似たような商品を提供しているにもかかわらず、世界的超大手と勝負ができたCarl's Jr.は、ブランド認知度が企業の存続・拡大にいかに重要かをしっかり理解しているのです。

ブランド認知度を高めるには?
さて、御社のブランド認知度はどうですか?中小企業であれば、なおさら認知度を高めないと、ブランド力のある大手に太刀打ちできません。「でも、資本力の劣る私たちに何ができるのか」とお考えの方、ご安心を。方法は無数にあります。テレビCMだけではないのです。

テレビCMの長所は、その圧倒的な視聴者数です。ただしその中には、CMが対象にしていない層も多く含まれる可能性があります。テレビの場合、対象を限定できる要素は、番組の内容や時間帯くらいしかないからです。

では広告を、ある特定のサービスや商品を探しているインターネットユーザーの目に留まるように仕向けたらどうでしょう。予め関心のあるユーザー層を高い精度で絞り込めるため、より効果的に広告費用も使えます。加えて近年のインターネットユーザー数の爆発的増加により、テレビCMに匹敵する、もしくはそれ以上の視聴者数も期待できるかもしれません。

ちなみに私がかつて手掛けたキャンペーンでも、ブランド認知度が少なくとも3倍、多いときは20倍以上もアップしています(パリスちゃんの裸の力を借りずに!)。

前回、SEO(検索結果の上位に表示されるようなウェブサイトを作る)や、PPC(検索キーワードに連動するテキスト広告を表示)が、ブランディングに多く活用されているとお話ししましたが、その理由がお分かり頂けたと思います。

通常、検索エンジンで上位5位以内に常時表示されていれば、それだけで認知度は向上します。ただし認知度アップだけでは不十分
では、次回さらにブランディングについてお話しします。

2008年2月26日火曜日

「ブランディングをご存知ですか?」 USFL連載その第20回(7月3週号)

第20回目はUSフロントライン(2007)7月3週号USFLに入っています。
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やさしく解説 ウェブマーケティング
レイア・ワークマン(ACE Inc.)

SEMとはSearch Engineの略で、検索エンジンを使って様々な手法により集客するマーケティングの総称です。SEMの代表例には、本稿でも取り上げてきたSEO(検索結果の上位に表示されるようなウェブサイトを作り、集客する手法)や、PPC(検索キーワードに連動するテキスト広告を有料で表示してもらい、集客する手法)などがあります。

SEMは、やっていて当然
北米における今年のSEMの統計を見てみましょう。昨年、北米の広告主は、SEMになんと94億ドル(*)を費やしました。2005に比べると62%の増加です。2011年までには186億ドル(*)が費やされると予測されています(*これより多いという予測すらあります。SEMは大産業であり、一般の企業の広告費として年々急増していることが分かります)。
アメリカで本気でビジネスをしたい人であれば、誰もがSEMを当たり前に行っており、SEMなしでは考えられないところまで来ているのです。今からSEMを始めるとすれば、完全に後発組です。
その昔、ホームページを持つことがステータスになっていた時代もありましたが、今や企業においてホームページを持つだけではステータスでも何でもありません。これと全く同じく、SEOやPPC「 も、実は数年前から「やっていて当たり前」の時代になっています。

SEMに関する面白い事実
SEM利用者増加の要因の一つは、オンラインビジネス(ネットユーザーが顧客ベースのビジネス)の増加です。これは読者の皆さんも、感覚的に理解しやすいと思います。
ただSEMは、アメリカのマーケットにおいては、オンラインでの直接販売より、むしろブランディングに活用される傾向がありました。2006年になってようやく、売り上げに直接つなげる広告ツールとしてのSEM利用が上回ったのです。これって少し意外ではないですか?
「そもそもブランディングとは何?」と思われていた方、もしもブランディングについてご存知ないのであれば、ビジネス的にはかなり痛いです(次回は、この点をもう少し詳しく触れます)。


ブランディングとは何か?
御社の商品・社名は、消費者にどれぐらい知られていますか?それを確認する一つの指標が、検索エンジンでの検索数です。「ほとんど検索されていない」企業の方にこそ、「ブランディング」の必要性をお教えしたいです。
「マイクロソフト」という社名を知らない方はいないでしょう。Windowsソフトウェア名もないと思います。まさにブランド認知度が高いといえます。しかし「Zune」はどでしょうか?
知らない方も結構いると思います。これはマイクロソフト社がアップル社の「iPod」に対抗して出したメディア・プレイヤーです。

今年の1月、(2007年当時)ある検索エンジンにて「Zune」というキーワードが18万6624回、同じ時期に「iPod」検索された回数は103万1801回。約5倍以上でした。
一般の人にとってメディア・プレイヤーといえば「Zune」ではなく「iPod」なのです。これがブランディングの力です。

2008年2月10日日曜日

「ウェブ予算の考え方、間違ってませんか?」USFL連載その19(7月1週号)

19回目はUSフロントライン回7月1週号USFLに入っています。
コラム19回目 は、このブログ内でお読み頂けます。


やさしく解説 ウェブマーケティング
レイア・ワークマン(ACE Inc.)

映画「フィールド・オブ・ドリームス」を覚えていますか? 
89年に大ヒットした作品です。ケビン・コスナー演じる農夫がある日「If you build it, he will come.」(それを作れば、彼はやってく来る)という、天から謎の囁(ささや)きを耳にします。「それ」とは何か? 「彼」とは誰か? はっきりとは分からないまま、彼はその囁きを信じ、家族や他人をも巻き込んで、農場を失いそうになるのもかまわず、トウモロコシ畑の中に野球場を作ります。そしてその野球場に奇跡的に人が集まってくるという、感動と涙で終わるハッピーな映画でした。

フィールド・オブ・ドリームス的思考とは
しかし現実の世界では、ただお店を出しただけでは、お客さんはなかなか来ません。普通は集客のために宣伝広告を行います。人通りの多い一等地に出店した場合は、宣伝広告は不要かもしれませんが、その分、場所代が高くなります。

ウェブの世界でも全く同じです。ウェブをただ作っただけで、誰かがそこへやって来るわけではありません。
仕事依頼の問い合わせは、本来なら私たちにとって喜ばしいことなのですが、ある種の問い合わせが入ると、「また安易なビジネスプランで、あり得ないことを期待しているな」と思い、憂鬱になります。文句を言っているのではありませんが(OK、ちょっとした文句ですね。笑)、この種の問い合わせは、個人ビジネスの方だけではなく、わりと大手の企業の方からも結構な頻度で入ってくるのです。以下、例を挙げます。

「問い合わせが今ひとつなので、とりあえずデザインをリニューアルしたい」
(問い合わせが少ない根本の原因は、そもそもビジターが少ないからでは?)

「商材はとても優れているので、ただホームページを作ってくれさえすれば成功する」
(商材もホームページも、まず人に知られなければ意味はないのでは?)

「英語ページを追加すれば、少しは英語圏の顧客も獲得できるはずだ」
(何百万もある競合ページと勝負できるだけの予算を考えているのだろうか?)

こうした問い合わせに共通しているのは、集客というプロセスの軽視です。ホームページさえ作れば、人が勝手にやってくると勘違いしている「フィールド・オブ・ドリームス的思考」です。

集客なくしてビジネスなし
集客を考えずにまずホームページを作るのは、完全に順番が逆です。以前に本欄で紹介したSEO(検索結果の上位に表示されるようなウェブサイトを作り、集客する手法)は、サイト制作段階から考慮する必要があるからです。集客力のあるホームページにするには、一から作り直さないといけなくなります。
残された集客法としては、PPC(検索キーワードに連動するテキスト広告を表示してもらい、集客する手法)が有力ですが、広告がクリックされる毎に課金されます。
しかし、こうした広告費を想定していない人が多いのです。

集客のための広告予算は?
どんな手法であれ、集客するにはコストが掛かります。競合サイトが多数存在する場合、もしくは、検索結果において一等地を手に入れたい場合、相応の広告費が必要です。それを予め確保していなければ、どんなビジネスプランもただの妄想です。
ウェブ制作予算において、サイト構築費と広告費の比率が明らかに間違っているケースが目に付きます。業者さんにウェブ制作を依頼する前に、どういう手法でどの程度の集客が見込めるのかをよく確認しておきましょう。そして集客状況は容易に計測できるので、実際に検証を行うとよいでしょう。
集客を甘く見ると、あなたの「フィールド・オブ・ドリームス」はハッピーでも感動的でもなく、涙だけで終わります。
では次回20回(No.365)で、お会いしましょう。If you read it, I will come.

2008年1月14日月曜日

「バイラルマーケティングから学ぶ」USFL連載その18(6月3週号)

18回目はUSフロントライン回6月3週号USFLに入っています。
コラム18回目 は、このブログ内でお読み頂けます。

前回6月1週号では、バイラル(口コミ)マーケティングについて説明しました。今回はその続編です

口コミはこうして始まる
友達から「面白い」「遊べる」ウェブサイトのURLをEメールでもらった経験はありますか? インターネットを使っている人であれば「はい」と言う人が多いのではないでしょうか? なぜか私は頻繁にもらいます。しばらく前ですが、www.subservientchicken.comというURLが転送されてきました(我が社のクライアントではないので、本欄で紹介することに裏心はありません! 笑)。
これは、大ヒットしたバーガーキング社のバイラルサイトです。人から人へ火事のように広まったバイラルマーケティングの成功例とされています。その成功を見て、真似した会社は無数にありましたが、大半は同じ効果を再現できずに終わりました。人から人へ伝達されるには、それなりにユニークなアイデアが必要なのです。インターネットユーザーは馬鹿ではないのですから。

これも想定内?
ボストン在住の読者の中には、1月末に、あるバイラルキャンペーンに巻き込まれてしまった人がいるかもしれません。アニメ番組「Aqua Teen Hunger Force」の関係者が、通常の広告とは別に、光で番組キャラクターを表現する小さな装置を町の至るところに置いたのです。それを見て、「何これ?」と面白がるファンや若者は写真を撮り、ブログなどに載せました。しかし、ある地下鉄作業員が、テロリストが設置した爆破物ではないかと勘違いしたため、結果的にボストン市中が大パニックになったのです。
2人の逮捕者を出す騒ぎになりましたが、このテロ騒ぎがあったからこそ、このキャンペーンはここまでの注目を浴びることになったとも言えます(どこまでが想定内だったのかは分かりませんが)。
バイラルマーケティングは、無関係な人を巻き込み、利用して、無料で自分の広告を伝達してもらう行為です。大抵の人は、利用されると怒ります。そのためバイラルをねらって失敗すると、逆に反感を買うこともあります。例えば去年の暮れ、ソニーの子会社が強引なバイラルマーケティングを行ったのですが、オンラインユーザーからバイラルであることをばらされ、批判を受けました。しかし、恐ろしいペースで伝達され、社名などが出回ったのも事実です。英語には「There is no such thing as bad press (publicity).」という表現があります。「マスコミなど人々の注目を浴びること自体が良いことである」という意味です。
まあ、おそらくバイラルマーケティングで本当の失敗と言い切れるのは、私の目に入っていないキャンペーンのみでしょう(笑)

成功するマーケティングとは
大量の商品やサービスが溢れている現代社会。各社は、いかに消費者の目を引き、自分の製品を売るかで、しのぎを削っています。敗者は淘汰されるだけです。宣伝や広告に慣れてしまい、賢くなった消費者に対しては、新しいマーケティング手法を開拓すると同時に、伝統的な広告媒体の上手な活用が必要になります。
マーケティングされる側の気持ちをどう尊重するかが、成功の秘訣の一つではないでしょうか。スパムやポップアップ、憎たらしい音が出るバナー、本物の手紙を装ったDMなど、消費者が反感を覚えるチープなマーケティングはNG。クロスメディア的なアプローチをうまく利用して、マーケティングされている側も何らかの付加価値が得られるようにすることが重要なポイントだと、バイラルマーケティングは教えてくれます。
相手を騙したりイライラさせるではなく、楽しませ付加価値を与えることで、知人に伝えてもらう。
一方通行だったマーケティングは、双方向のギブアンドテイク時代になってきています。

2007年11月29日木曜日

「バイラルマーケティングって何?」USFL連載その17(6月1週号)

17回目はUSフロントライン回6月1週号USFLに入っています。
コラム17回目 は、このブログ内でお読み頂けます。

前回5月3週号では、オピニオン・リーダーの存在について触れました。一般に世論は、マスコミから各個人へ直接情報が浸透して形成されるのではありません。情報源を多く持ち、ある分野に関して詳しいと思われている身近な人々(オピニオン・リーダーと呼ばれる。例えば同僚、親戚、友人など)が、まずマスコミの情報を消化し、周辺の人々に情報が伝達され形成されるのです。今回は、その特性を活かしたマーケティング手法を紹介します。

マーケティング業界も馬鹿じゃない
もちろんマーケティング業界は、オピニオン・リーダーの存在を理解しているし、オピニオン・リーダ
ーに意図的にアプローチして人"間広告になってもらおうとしています。
分かりやすい例で言えば、売れっ子女優が持つバッグや着ている服は、メーカーから貰ったものだったりします。10万部発行のファッション雑誌に載せる広告より、イベントで写される一枚のスター写真の方が、そのバッグをヒットに導く場合があります。スターが身に着けたものを、目敏い人が真似し、それを見た友人がまた周囲に伝えていく。まさに口コミで伝播していくわけです。

口コミを利用するマーケティング
バイラルマーケティングとは、要するに「口コミマーケティング」のことです。
ウェブにおける初期「バイラルマーケティング」の大成功例として、よく取り上げられるのがHotmail。ご存知の通り、マイクロソフト社が提供している無料の電子メールサービスです。誰でも無料でメールアカウントが作れ、友人にメールを送ると、その末尾にHotmailの広告が自動的に表示されます。メールをもらった相手は、そこでHotmailの存在を知り、自分もアカウントを作る。
とても成功したので、Hotmailアカウントを持っていないウェブユーザーは存在しないように思える時もありました。
一方、以前ご紹介したGmail(グーグル社の無料メールサービス)は、最近の例です。その普及のさせ方は、Hotmailのように露骨な広告をメールに勝手に入れるのではなく、オンライン文化の変化に合わせたものでした。インターネット上のオピニオン・リーダーたちにアカウントをまず作らせます。そして彼らに招待状を発行する権利を与え、周囲に伝播させていったのです。インターネット上の売れっ子有名人をうまく使い、ブランド品の口コミ現象をうまく起こした例といえます。
前回、「Web 2.0」(ビジターもサイトのコンテンツ作りにインタラクティブに参加し、他のビジターとやり取りして、オンライン社会を構成する形態)に触れた時、ウェブにも一般社会と同じくオピニオン・リーダーが存在するようになってきたと書きました。しかも、オフライン社会と違って、オンラインのオピニオン・リーダーたちには、国境や距離などという伝達の妨げになるものが存在しません。インターネット回線だけあれば、誰でも参加できるコミュニティーが多数存在する今、会ったこともない人にでも口コミ可能になりました。現在、メールだけではなく、楽しい無料アプリ(ソフトウェア)やゲーム、ウェブサイト、ビデオなどの多くで、バイラルマーケティングの手法が利用されています。

テレビCMだけではダメ
アメフトのスーパーボウルは、広告費用の高さ(30秒で250万ドル)と、その面白さで有名です。今年の
視聴者はなんと8719万人だったそうです。でも単なるテレビCMだけでは、広告の寿命が30
秒で終わってしまうという愚かさにも、広告主は気づいてきたようです。
今年は、クロスメディア(様々な媒体を併用したキャンペーン)を意識しているCMが目立ちました。30秒では終わらせず、視聴者を自社ウェブへ導き、オンライン上でそのCMのビデオを公開してバイラルマーケティングを行い、人から人へ伝達させることが明確な狙いとしてありました。

2007年11月1日木曜日

「広告主必見!時代遅れのマーケティングはダメ」USFL連載その16(5月3週号)

16回目はUSフロントライン回5月3週号USFLに入っています。
コラム16回目 は、このブログ内でお読み頂けます。

やさしく解説 ウェブマーケティング
レイア・ワークマン(ACE Inc.)
前回(5月1週号)は、広告を無視する消費者とマーケティング業界の攻防についてお話ししました。今回は、その戦いの着地点に触れます。

ウェブ2.0?
数年前から「Web2.0」という表現を目にするようになりました。何か深い意味があるような気もしますが、その定義はけっこう曖昧です。もし「Web1.0」があったとすれば、それは、企業や個人がウェブサイトに情報を載せ、サイトのビジターはその情報を一方的に(受身的に)受け取るだけの形態を指します。一方、「Web2.0」は、ビジターもサイトのコンテンツ作りに参加し、他のビジターとやり取りして、オンライン社会を構成する形態を指します。代表例はeBay、Craigslist、Wikipediaなど。このようにウェブがユーザー参加型になり、インタラクティブ(双方向化)になるにつれ、マーケティングも変化してきました。

2.0時代のマーケティング
消費者は今、広告に対して免疫を持ち、賢くなり、マーケティングの影響を簡単には受けないようになっています。きれいな画像やちょっとした売り文句の広告を紙面やウェブに載せるだけでは不十分。ありきたりのCMを全国テレビに流すだけでも駄目。しかし消費文化は衰えておらず、むしろ恐ろしい勢いで進んでいます。つまりマーケティング業界は決して劣っていないことが分かります。一方通行だったインターネットが「Web2.0」に展開したのと同様に、現代の成功するマーケティングでは、インタラクティブな要素が加えられているのです。消費者が広告を無視する術を身に付けてきた以上、あえて消費者にとってその広告を読む・見る・聞くメリットを付加価値として加えなければならない。これこそ消費者とマーケティング業界との攻防の着地点であり、広告主はそこをきちんと理解する必要があります。

誰が世論を誘導するか
モノを売りつけようとする者に対して警戒心を持つのは当然です。しかし、商品やサービスを買いたがるのも消費者です。この矛盾を解く鍵は「信用」です。さて、「人間は何をなぜ信用するか?」というテーマは昔から研究されてきました。20世紀の中頃、二人の社会学者が、情報や世論の構成や伝達について画期的な本を書きました(Elihu KatzとPaul Lazarsfeldの「Personal Influence: The Part Played by People in the Flow of Mass Communications」)。これによると、世論はマスコミから各個人へ直接情報が浸透して構成されるのではありません。情報源を多く持ち、ある分野に関して詳しいと思われている身近な人々(オピニオン・リーダーと呼ばれる。例えば同僚、親戚、友人など)が、まずマスコミの情報を消化し、周辺の人々に伝達され構成されるというのです。「専門家」と見なされているオピニオン・リーダーは、モノを売りたいというような私利私欲がないように思われているので、彼らの意見は尊重され、世論を左右する力を持つという結論でした。

私のオピニオン・リーダー
「消費者レポート(Consumer Reports)」という雑誌をご存知ですか?消費者保護団体が発行する雑誌で、広告を一切載せず商品評価を行っています。私にとって、家電製品などをしっかり評価してくれる「オピニオン・リーダー」の一つです。でも私はマーケッターですので、心の中に一抹の不安があるのも確か。「消費者レポート」の信頼性を疑っているわけではなく、マーケティング業界の仕組みを嫌というほど理解しているからです。つまり、「消費者レポート」ほど信頼されている雑誌なら、自社商品の評価を上げるため、企業はいくらでもお金を出すのではないかと。もしバレなければの話だけれど・・・・。